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2021.04.28

ナンデモ屋と版画

ケバブ屋と郵便局に挟まれた忘れられない店がある。

その店には、食器、文房具、衣類、ビニル製のテーブルクロス、工具など、食品以外の生活用品が、店内だけでなく店外にもビッチリドッサリ置かれ、吊され、埋もれ、売られていた。

ナンデモ揃うこの店を私はナンデモ屋と呼んでいて、数年間住んでいたロンドンの家の近くにあった。

ナンデモあるが、低予算低品質の商品が多く、誰もが行きつけにする店、というよりは、急遽今すぐ必要だから仕方なく、とか、とにかくコスパ!みたいな需要で成り立っていたと記憶している。

自分は今外国にいるんだと自覚するようなド派手な配色や、ナンダコレ⁉︎な商品が陳列し、それらの「洗練」とは真逆の美しさに魅せられ、私はよくそこへ通った。

インド人のおじさんが店主で、いつも誰かしらと世間話をしていた。

店に通ううちに、私も会計時に喋るようになり、私が日本人だと認識してからは、「ハイ!ヤパン!(ジャパン!)」、「バイ!ヤパン!」と必ず挨拶もしてくれた。

おじさんは、インドからロンドンに来てもう数十年になるが母国を恋しいと思っていることや、ターバンの中の髪の毛はずっと切らないでぐるぐる巻きにしていることなど、色々な話をしてくれた。帰国前、ちゃんと挨拶をしたかったが、無計画な私は別れを告げることなく帰国した。

もし今住んでいる街の商店街を抜けるとロンドンだったら、と考える。呑気な妄想を自覚した後、Google mapで視覚のみロンドンへ移動する。

帰国直後、Google mapの検索履歴がイギリスから日本に変わっていくのと同時に、今までのイギリス生活も夢みたいに消えてしまう気がして、履歴が日本語で埋もれる度にロンドンの住所を打ち込んだ。

当時通ったパブが現在休業状態にあることをGoogle map上で知った。

ナンデモ屋は幸い営業中のようで、とりあえず安堵するものの、店員も同じかどうかまでは教えてくれない。

THEATRE PRODUCTSで使っていただいた版画がナンデモ屋の商品ラインナップと頭の中で重なり、店の名前の頭文字を題名にした。

イギリスがEUを離脱し、世界中が惑う今、あのおじさんはどこにいるのだろう。今も変わらずあそこでおしゃべりしていてくれと願う。

そんな勝手な私の願いに比例するように、同題の版画は今もシリーズとして増え続けている。商店街の先に続いてはいかない、想いを馳せるしかないこの距離が、今の私を稼働させ、今の自分を保つ。

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テキスタイルや版画、コラージュなどさまざまな媒体を用いて
意欲的に活動している作家、大竹笙子が
シアタープロダクツの為に制作した木版画を、
大胆かつ繊細にプリントしたTシャツコットンバッグ

作家本人が配色し擦った、かすれやインクのたまりまで忠実に表現し、
作品の魅力を生活の中に感じられるアイテムに仕上げました。

「ロンドンに住んでいた頃に家の近くにあったインド人の経営するナンデモ屋、
“Value 4 Money”のチラシをもし私が作ったら…」という想像から始まった、「V4M」シリーズの第一弾。
男性にも対応できるユニセックスなサイズ感のTシャツと、
A3サイズのファイルもすっぽり収まり、“Value 4 Money”の名に負けない便利なサイズ感のコットンバッグです。

大竹笙子
1993年生まれ。2017年ロンドン芸術大学テキスタイル学科卒業。
日々の生活のなかに見つけたなにげない会話や光景をモチーフに、版画やドローイングなど様々な技法を用いて表現。
月刊誌『小説 野性時代』目次、扉絵担当。作品集に『DUMBBELL KUMBBELL Ⅰ,Ⅱ』がある。

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